年金の繰り下げ受給ってした方がいいの?しない方がいいの?と迷ったことはありませんか?
金額的な損得だけだと、判断がしにくいこともありますよね。
今私は30歳前後になるのですが、ちょうどこの前両親と老後の生活について話す機会がありました。
その中で年金の繰り下げ受給に関する話をしまして、その内容を記事にできれば参考にしていただける方もいらっしゃるかと思いました。
そこでこの記事では、年金の繰り下げ受給に対して「こう考えるとよいのでは?」という私の意見をお話しさせていただきます。
参考にしていただけたら嬉しいです。
はじめに:考えるうえでポイントとなる制度は?
年金繰り下げ受給を考えるうえでポイントとなる制度は以下の2つです。
- 公的年金の受給開始を65歳から1カ月繰り下げるごとに、受給額が0.7%増加する
- 年金は税金や社会保険料がかかる(一定額までは非課税)
1つ目のポイントは、そもそも老齢年金の繰り下げ制度についてです。
老齢年金の繰り下げ制度とは、年金の受給開始年齢を65歳から1カ月繰り下げるごとに0.7%だけ受給額が増加する、といった制度です。
老齢基礎年金、老齢厚生年金それぞれの受給額が1カ月繰り下げ毎に0.7%だけ増加し、両方とも一緒の時期まで繰り下げる必要があります。
2022年4月の制度改正からは、受給開始年齢は最大65歳⇒75歳まで10年間の繰り下げが可能となり、最大で受給額は0.7%×10年(120月)=84%増加します。
※老齢年金についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事をご参照ください。
-
老齢年金ってどんな制度?図を使いながら分かりやすく解説!
続きを見る
もう一点は老齢年金には税金や社会保険料がかかることです。
繰り下げ受給で増えた額のうち一部は、税金や社会保険料にもっていかれることになります。
税金は収入によって、社会保険料は収入やお住まいの地域によって異なるので、いくら税金や社会保険料かかるかがはっきりとは言いにくいです。。。
ただ
- 65歳以上のご夫婦の世帯
- 収入が公的年金の収入だけ
- 公的年金収入が世帯で年間200万円~300万円程度
であれば、繰り下げ受給で公的年金を増額させた場合に増額分のうちおおよそ20~25%前後は税金・社会保険料にとられることが多いです。
例えば年金収入が年間200万円だったときと、年間300万円だったときで、差額の100万円のうち20~25万円前後は税金・社会保険にとられて手取り額は75~80万円前後になる、といったイメージです。
※あくまで概算ですので、参考として捉えていただきますようお願いします。
ここから先では、繰り下げ受給で増額した金額のうち、税金・社会保険料で25%が引かれて手取りは75%分になると仮定した場合でお話しします。
繰り下げした場合とそうでない場合の比較
ここから公的年金を繰り下げ受給した場合と、そうでない場合の比較を説明します。
最初に前提をお話しし、「こう考えるとわかりやすいのでは?」というお話をさせていただきます。
1年間の繰り下げをするとどうなるか?
まず公的年金の受給開始を65歳⇒66歳に、1年間だけ繰り下げする場合を考えます。
次の内容を前提としてお話しします。
- 公的年金受給額は、65歳で受給開始したとき年間250万円
- 公的年金以外の収入はなし
- 65歳から66歳までの1年間は、貯金を取り崩して生活ができる
受給開始を1年遅らせる検討ができるということは、その1年は貯金を取り崩して生活ができるということになりますね。
ここで①65歳から受給開始した場合と、②66歳から受給開始した場合のそれぞれを考えます。
①65歳から受給開始した場合
65歳~66歳までの間に、公的年金から250万円の収入を得られます。
先ほどの前提から、65歳~66歳までの間を「貯金を取り崩して生活した」と考えれば、年金収入の250万円はそのまま貯金ができます。
※税金・社会保険料が引かれた後の金額になります。
年金収入の250万円分をそのまま貯金できるということは、66歳時点で250万円もらったのとおおよそ同じとも捉えられます。
※より正確に考えるのであれば、65歳で受け取った年金を運用した場合を考えないといけませんが、大きな差はないので上記の通りに考えます。
②66歳から受給開始した場合
繰り下げによる増額分は、ひと月あたり0.7%でした。
65歳⇒66歳に1年間(12カ月)繰り下げをすると、0.7%×12=8.4%だけ受給額が増えることになります。
年金収入は年額250万円がベースになっていますから、66歳受給開始だと250万円×8.4%=21万円だけ年間の受給額が増えます。
ベースになる年金収入が変わらなければ、この8.4%の増額は一生涯続きます。
この2つを比較するとき、単純化すれば次の違いとも考えられます。
①65歳から受給開始⇒66歳時点で250万円の一時金をうけとる
②66歳から受給開始⇒66歳時点から年間250万円×8.4%=21万円を一生涯うけとる
それぞれの場合で、生涯の生活費にあてた場合を考えてみましょう。
①の場合は、250万円の一時金を少しずつ取り崩して使うことになります。
生活費にあてようと思ったとき、ご自身が80歳まで生きると考えれば250÷14年=18万円/年、90歳まで生きると考えれば、250÷24年=10.4万円/年と計算して取り崩して使うことになります。
貯金の金額が少しずつ減っていくので、少し気が重そうですね。
また、80歳を超えても貯金の管理をしなければなりませんので、管理能力も求められることになります。
父と話したときも、管理していくのが精神的に大変そう、という話をしていました。
一方②の方はどうでしょうか?
この場合、一年あたり250万円×8.4%=21万円だけ多くのお金がもらえて、一生涯それが続きます。
250万円をもらった場合より、ひと月に多くの金額を使うことはできませんが、月々21万円÷12=1.75万円は比較的気軽に使えるお金になります。
また250万円をもらって取り崩す場合よりも、精神的にも楽になります。
また投資に置き換えて話してみると、②は「250万円を原資として年利8.4%の運用をしてもらう」のに似ています。
売却はできませんが、8.4%配当が毎年必ずもらえるなら、投資で考えればすごく高い利率に感じられますね。
※税金等が違いますので、あくまで例えとしてお考え下さい。
5年間の繰り下げをするとどうなるか?
次に公的年金の受給開始を65歳⇒70歳に、5年間だけ繰り下げする場合を考えます。
次の内容を前提としてお話しします。
- 公的年金受給額は、65歳で受給開始したとき年間250万円
- 公的年金以外の収入はなし
- 65歳から70歳までの5年間は、貯金を取り崩して生活ができる
先ほどの例と同様の条件ですね。
ここで③65歳から受給開始した場合と、④70歳から受給開始した場合のそれぞれを考えます。
③65歳から受給開始した場合
65歳~70歳までの間に、公的年金から250万円の収入を得られます。
先ほどの前提から、65歳~70歳までの間を「貯金を取り崩して生活した」と考えれば、年金収入の1250万円はそのまま貯金ができます。
※税金・社会保険料が引かれた後の金額になります。
先ほどと同様ですが、70歳時点で1250万円もらったのとおおよそ同じとも捉えられます。
※より正確に考えるのであれば、65歳で受け取った年金を運用した場合を考える必要があります。
②70歳から受給開始した場合
繰り下げによる増額分は、ひと月あたり0.7%でした。
65歳⇒70歳に5年間(60カ月)繰り下げをすると、0.7%×60=42%だけ受給額が増えることになります。
年金収入は年額250万円がベースになっていますから、70歳受給開始だと250万円×42%=105万円だけ年間の受給額が増えます。
ベースになる年金収入が変わらなければ、この42%の増額は一生涯続きます。
ここで、105万円の増額分を、5年間の年金収入1250万円をベースにすると、105万円/1250万円 = 8.4%に相当します。
先ほどと同様の比較にしてみます。
③65歳から受給開始⇒70歳時点で1250万円の一時金をうけとる
④70歳から受給開始⇒70歳時点から年間1250万円×8.4%=105万円を一生涯うけとる
前述の①②で紹介したものと、同様となりました。
1年繰り下げした場合は、1年間分の年金収入250万円ベースの議論でした。
5年繰り下げした場合には、1年間分の年金収入1250万円ベースの議論になる、ということですね。
これは他の場合にも当てはまり「〇〇年繰り下げした場合には、〇〇年間分の年金収入250万円×〇〇年ベースの議論」となります。
また年金収入が350万円に変われば、「〇〇年繰り下げした場合には、〇〇年間分の年金収入350万円×〇〇年ベースの議論」と読み替えられます。
つまり年金収入を一時金としてもらわない代わりに、年金としてもらえる選択肢が繰り下げ受給、ととらえることができます。
③と④の比較は、①と②の比較と同様になります。
③1250万円を一時金としてもらうか、④年間105万円を一生涯受け取るかですと、後者の方が管理をするのが簡単そうですね。
繰り下げのメリット・デメリット
繰り返しですが、年金収入を一時金としてもらわない代わりに、年金としてもらえる選択肢が繰り下げ受給、ととらえることができます。
まとめると、②の繰り下げ受給を選んだ場合のメリット・デメリットは次のようになります。
◇繰り下げ受給のメリット
- 年金の増額が一生涯続くので安心
- 一時金でもらった場合に比べて、お金の管理が簡単になり精神的な負担が軽い
◇繰り下げ受給のデメリット
- 長生きしないと得にならない
- 繰り下げをしている間の生活費は、年金以外の貯金などで支えることになる
繰り下げ受給のメリットの、精神的な負担を軽くできるということは、とても大きなことだと思います。
老後で新しく働き始めることにハードルがある中で、お金の面で安心できる材料を作るのは重要と考えます。
補足になりますが、実際の手取り金額は税金・社会保険料が引かれて、25%程度は減ってしまうことにお気を付けください。
おすすめの方針は?
お金は最期のときに多く持っていても仕方がありません。
一方で老後をむかえるまでは、どんな生活をしてどれくらいお金がかかるかわからない部分があります。
そこで
- 65歳をむかえるとき、ひとまず繰り下げ受給を選択する(一定の貯金が必要です)
- 老後の暮らしを経験してみて、毎月の生活で必要と思える金額を考える
- その金額に達するまで、受給年齢を繰り下げる
- 残った貯金は、介護や医療などのために一定額を残して、残りは新しい挑戦や趣味に使う
といった方法がいいのではないでしょうか?
月々の生活費や、たまの旅行などにかかるお金を大きく超えるまで、繰り下げ受給をして受給額を増やす必要はないと思います。
一方で老後の生活費は人によって千差万別で、実際に経験しないとわからない面もあるので、ひとまず繰り下げ受給を選択し、いつ受給開始するかを経験する中で決められればいいのだと思います。
お金の管理の観点では、
- 生活費やたまの旅行は公的年金の範囲で賄う
- 貯金は生活防衛資金を確保する
- 防衛資金を確保したうち残りの貯金は、自分の生活を豊かにするために使う
というように、月々の得られる公的年金の収入と(フロー収入)と、貯めておいた貯金=ストック分は用途を分けるととても楽になります。
また80歳以上で一生涯貯金の取り崩しの管理をするのも大変というのも、繰り下げ受給を考えるうえでのポイントになります。
以上が繰り下げ受給に関するご紹介です。
まとめ
ご紹介した内容をまとめると次の通りです。
ポイント
- 公的年金の受給開始を65歳から1カ月繰り下げるごとに、受給額が0.7%増加する
- 年金は税金や社会保険料がかかる(一定額までは非課税)
- 繰り下げ受給は、受給額だけでなくお金の管理の面でメリットがある
老後の生活はいろいろなスタイルが考えられますが、最近言われ始めた「長生きリスク」への対応として繰り下げ受給は有効な選択肢の一つです。
今回ご紹介した内容も一つの考え方として参考にしていただき、ご自身にあった年金受給のプランを考えてみていただければ幸いです。
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