育児休暇や介護休暇など、会社員の方は周りでとられている方がいらっしゃらないでしょうか?
実はこれらは、雇用保険の保障項目の一つです。
前回の記事で雇用保険の代表的な保障である、基本手当(失業手当)について説明しましたが、今回はそれ以外の保障を紹介します。
育児休暇や介護休暇以外の保障もありますので、ひとつずつ分かりやすく説明していきますね。
この記事では
- 雇用保険には基本手当(失業手当)以外にどんな保障があるか
- 介護休暇や育休はどのくらい給付がもらえて、どのくらい休暇がとれるのか
を分かりやすくまとめていきます。
※労働者視点での制度を説明させて頂きます。事業者視点については割愛させて頂きますが、ご容赦ください。
就業促進手当について
はじめに就業促進手当について説明します。
就業促進手当には再就職手当/就職促進定着手当/就業手当などがありますが、ここでは再就職手当だけ説明をします。
先ほどの基本手当(失業手当)の説明でこう思った方もいるのではないでしょうか?
基本手当を(例えば)120日もらえるなら、120日分もらってから再就職した方がいい?
実はそうとも限りません。
冒頭の「再就職手当」は、早期に再就職した方を対象に、その後もらえるはずだった基本手当(失業手当)のうち60~70%を受け取れるような制度となっています。
受け取れる金額は、再就職が決定したタイミングによって変わります。
手当の金額は下記の通りです。
再就職手当の計算式(令和3年8月)
①基本手当給付の残り日数が2/3以上で再就職決定した場合
■基本手当日額×給付残り日数×70%
②基本手当給付の残り日数が1/3以上で再就職決定した場合
■基本手当日額×給付残り日数×60%
※基本手当日額の上限は、先ほどの「基本手当」の場合と別で、
離職時年齢60歳未満:6,120円/離職時年齢60~64歳:4,950円
です。
もう少しイメージしやすいよう、一例を挙げて説明しますね。
- 基本手当日額:4,000円
- 基本手当給付の全日数:120日
の場合、下の通りになります。
①の場合:
再就職手当 = 4000円×90日×70% =252,000円
②の場合:
再就職手当 = 4000円×60日×60% = 144,000円
ここまで金額の説明をしてきましたが、再就職の時期以外にもいくつかの条件があります。
「離職した職場に再び就職してないこと」「1年以上の勤務が見込まれること」「過去3年で再就職手当や常陽就職支度手当をうけていないこと」などの条件です。
実際に給付を受ける場合は、厚生労働省のページを確認してみてくださいね。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000135058.html
教育訓練給付金について
これまで説明してきた基本手当(失業手当)や就業促進手当は、失業してしまった場合に対象になる手当でした。
一方、これから説明する教育訓練給付金などは、会社で働いている間も対象になる制度となります。
教育訓練給付金は、特定の資格などをとる場合に、受講費用の一部に給付を受けられる制度になっています。
対象となる資格によって次の3つに分けられ、対象となる講座/給付額の概略は下の通りです。
教育訓練給付の概略
- 一般教育訓練
■対象となる講座:簿記、ITパスポート、TOEICなど
■給付額:受講費用の20%(年上限10万円) - 特定一般教育訓練
■対象となる講座:税理士、FP技能検定など
■給付額:受講費用の40%(年上限20万円) - 専門実践教育訓練
■対象となる講座:看護師、調理師、など
■給付額:受講費用の50%(年上限40万円)
※一定期間内に雇用されれば、追加で受講費用の20%(年上限16万円)
受給するには、雇用保険の被保険者期間が~3年程度必要です。
また、一度この制度の適用を受けた場合、次回制度利用できるまでは3年のインターバルが必要になります。
あまり連続しては利用できないということですね。
概略は以上の通りです。
教育訓練給付金は「資格取得の補助をしてくれる制度」と知っておけばいいと思います。
実際に資格を取りたいと思ったときには、その資格が対象かなどを調べてみてください。(所定の手続きも必要となってきます。)
参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/kyouiku.html
介護休業給付について
次は介護休業給付について説明します。
お仕事をしている中で、ご家族の介護が必要になってお休みをもらわないといけないとき、この介護休業給付の支給対象になってきます。
給付を受けるための主な要件は次の通りです。
■介護休業を取るときの条件
- 介護休業前の2年間で11日以上働いた月が12カ月以上あること
- 休業をとったあとには職場に復帰して働き続ける意思があること
- 2週間以上の休業が必要なこと
■介護休業中の条件
- 休業取得中の各1カ月で、休業前の80%以上の賃金が出ていないこと
- 休業取得中の各1カ月で、月当たりの就業日数が10日以下のこと
また、介護の対象となるのは雇用保険加入者のご家族だけで、お一人につき最大93日までの給付を受けられます。
この93日分の休業は3回まで分割して取得可能です。
一方で、一度93日分の休業をすると、もし別の症状で介護が必要になっても、再度介護休暇はとれなくなります。
下のようなイメージになります。
介護休業給付の金額は次の通りです。
介護休業給付の金額
介護休業給付 = 賃金日額 × 休業日数 × 67%
賃金日額は「基本手当(失業手当)」での求め方と同様に、「(離職前6カ月の給与の総額)÷180」で求められます。
「給与の総額」なのでボーナスなどは入らないことに注意ですね。
上の式の通り、働いていたときの給与の約67%がもらえることになります。
給付額には上限があり、令和3年8月時点で一か月(30日)あたりの給付額の上限は332,253円です。
このとき一か月あたりの賃金は495,900円にあたりますから、月の給与が約50万以上だと上限にかかると覚えておけばOKです。
参考:https://www.mhlw.go.jp/content/000731645.pdf?fbclid=IwAR0vIzK54T4qGZOHI4Nxoq72IhBhxDY8NG-FBizCAjgUIbNXy5RVmN0duGQ
また、他にも一つ注意点があります。
介護休業期間中に少し働いて会社から給与が出る場合には
(会社からの賃金) + (介護休業給付) ≦ 休業前の賃金の80%
となるように給付額が調整されます。
次の図のようなイメージですね。
介護休業とっていた分を取り返そうとして頑張って働くと、給付金が少なくなることもありそうです。
以上が介護休業給付金の説明です。
育児休業給付について
次は育児休業給付について説明します。
「育休」と良く聞くようになりましたが、「子どもが小さい時に育児のために休業したとき、国から給付金をもらえる」ような制度です。
制度の概要と、受けられる給付の金額について抑えていきましょう。
まず給付を受けられる主な条件ですが、「育児休業をとるとき」と「育児休業中」で下の通りになります。
■育児休業を取るときの条件
- 雇用保険に入っていること
- 育休開始前の2年間に11日以上働いた月が12カ月以上あること
- 子どもが1歳未満であること(やむを得ない理由があれば2歳まで延長)
■育児休業中の条件
- 休業取得中の各1カ月で、休業前の80%以上の賃金が出ていないこと
- 休業取得中の各1カ月で、月当たりの就業日数が10日以下のこと
次から具体的な休業期間などを見ていきましょう。
育児休業給付の期間について
育児休業が取れる期間は、基本的には子どもが1歳未満の間になります。
出産をした女性は、産後休業の期間が8週間あるため、女性と男性で少し異なることになります。
下の図をご覧ください。
ポイント
- 育児休業をとれるのは子どもが1歳未満の間、必要と認められれば2歳まで延長可能
- 育児休業をとれる期間は
女性:"産後休業+育休"が最大1年まで
男性:"育休"が最大1年まで - 育児休業は基本的に分割して取得できない(22年秋以降に2回分割可能になる予定)
1つめのポイントについて、育児休業をとれるのは子どもが1歳未満の間、必要と認められれば2歳まで延長可能です。
延長できる条件は
- 保育所等に子どもを預けられないなど、やむを得ず延長が必要となること
- 子どもの1歳の誕生日までに、両親のどちらかが育児休業をとっていること
となっています。
こういった場合、育児休業の期間を1歳⇒1歳6か月までに延長でき、1歳6カ月でも同様の状況であればさらに2歳までに延長が可能です。
参考までですが、21年8月時点ではご両親二人とも育休延長することも可能です。
また片方が専業主婦(主夫)の場合にも取得可能です。
2つ目のポイントについて、育児休業をとれるのは女性は"産後休業+育休"が最大1年まで、男性は"育休"が最大1年まで、となっています。
女性は産後休業がある分だけ、育休の期間が変わるのですね。
3つ目のポイントについて、21年8月現在、育児休業は基本的に分割して取得できないことになっています。
育休を取得した後に職場復帰した場合、その後に再度育休をとることが基本的にできません。
以上が育休期間の基本的な内容ですが、期間の制限を緩和する「パパ休暇」「パパ・ママ育休プラス」という制度があるので、合わせて説明します。
パパ休暇について
パパ休暇とは、男性の育休取得の際に先ほどのポイントの「3.育休を分割取得できない」というルールを緩和する制度です。
具体的には、妻の産後8週間以内に夫が育休を取得/終了していれば、その後に再度育休取得が可能となる制度です。
イメージは下の通りです。
制度の利用方法として、例えば次のような例が挙げられます。
- 子ども0歳~8週間:パパが育休取得
- 子ども8週間~6カ月:ママが育休取得
- 子ども6カ月~1歳:パパも育休取得(ママは育休継続でも職場復帰でもOK)
ママとパパで子育てに柔軟に取り組めるようにする制度ですね。
以上がパパ休暇の概要です。
パパ・ママ育休プラスについて
次に"パパ・ママ育休プラス"について説明します。
パパ・ママ育休プラスとは、先ほどのポイントの「1.育児休業をとれるのは子どもが1歳未満の間」というルールを緩和する制度です。
具体的には両親ともに育休を取得する場合に、特定の条件を満たせば子どもが1歳2カ月まで休業期間を延長できる制度です。
「保育施設に子どもを預けられない」などの特別な事情がなくても利用が可能です。
次のようなイメージです。
制度が利用できる主な条件は下の通りです。
(※主語がはっきりしないと分かりにくいので、"ママが取得する場合"と"パパが取得する場合"で分けて説明しますが、内容は同様です。)
- ママの育休開始が子どもの1歳の誕生日以前であること
- パパの育休開始以降に、ママが育休をとり始めていること
- パパが子どもの1歳の誕生日以前に育休をとっていること
- パパの育休開始が子どもの1歳の誕生日以前であること
- ママの育休開始以降に、パパが育休をとり始めていること
- ママが子どもの1歳の誕生日以前に育休をとっていること
補足になりますが、「2.育休は原則1年以内」という部分は緩和がされないため、例えば「子ども0歳~1歳2カ月までパパが育休をとる」というのはできません。
少し取得条件が複雑な制度になっていますので、取得の際にはご夫婦でよく相談されるのが良いかと思います。
以上が育児休業給付の期間に関する説明です。
育児休業給付の給付金額について
育児休業給付金の金額ですが、休業開始からの期間によって変わり次の通りです。
育児休業給付の金額
①育児休業開始から6カ月まで
■賃金日額×休業日数×67%
②育児休業開始から6カ月以降
■賃金日額×休業日数×50%
賃金日額は「基本手当(失業手当)」で説明した通り、「(離職前6カ月の給与の総額)÷180」で求められます。
「給与の総額」なのでボーナスなどは入りません。
上の式の通り、働いていたときの給与の約67%または約50%がもらえることになります。
給付額には上限があり、令和3年8月時点で下の通りです。
- ①育児休業開始から6カ月まで
■育児休業給付金の上限額:301,902円 - ②育児休業開始から6カ月以降
■育児休業給付金の上限額:225,300円
このとき一か月あたりの賃金は450,600円にあたりますから、月の給与が約45万以上だと上限にかかるということですね。
参考:https://www.mhlw.go.jp/content/000731645.pdf?fbclid=IwAR0vIzK54T4qGZOHI4Nxoq72IhBhxDY8NG-FBizCAjgUIbNXy5RVmN0duGQ
また、他にも一つ注意点があります。
介護休業給付と同様に、育児休業期間中に少し働いて会社から給与が出る場合には
(会社からの賃金) + (育児休業給付) ≦ 休業前の賃金の80%
となるように給付額が調整されます。
(介護休業給付の図と同様になるため、イメージ図は割愛させて頂きますね。)
以上が育児休業給付金の説明です。
まとめ
まとめると
雇用保険、基本手当の概要
- 失業後早い時期に再就職した場合には「再就職手当」、資格取得時には「教育訓練給付金」といった制度がある
- 介護休業は最大93日間、働いていた時の賃金の約67%が受け取れる
- 育児休業は最大1年、やむを得ない理由があれば2年まで、働いていた時の賃金の67%~50%が受け取れる
ということですね。
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